[HOME]



   訴状

                             平成13年 5月 2日

東京地方裁判所 御中            

                         原告  植田 麻実
                         原告  石岡 春二
                         原告  春日 武夫
                         原告  根本 二郎
                         原告  中村 勇人
                         原告  中田 太郎
                         原告  牛山 リコ
                         原告  秋葉 万亀子
                         原告  横関 拓也
                         原告  春日 秀子

                         被告  石原 慎太郎
                         被告  戸井 昌蔵

大けやき伐採損害賠償請求事件
   訴訟物の価額  金950,000円(住民訴訟)
   貼付印紙額   金8,200円

         請求の趣旨 
一 両被告は、東京都に対し、連帯して金80,655,000円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払い済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は両被告の負担とする。
 との判決並びに仮執行の宣言を求める。

         請求の原因 
第一 当事者
 1 原告らは、いずれも東京都の住民である。
 2 被告石原慎太郎は、平成11年4月より東京都知事の職にあるものである。被告戸井昌蔵は、平成11年4月より東京都住宅局長の職にあるものである。

第二 違法な大けやき伐採および公金の支出
 1 東京都は、平成13年2月1日、新宿区百人町4丁目都営住宅建替え工事(以下本件工事とする)に伴い、同所にあった推定樹齢200年、幹回り2.7メートル、高さ17メートルを超えるけやきの木(以下大けやきとする)保護のための移植について話し合うとした念書を、原告らと交わしたにもかかわらず約束の期日の1日前に伐採した(以下本件伐採とする)。本件伐採は信義則違反であるとともに、それまでに至る一連の公金の支出もまた、以下の理由により東京都条例「東京における自然の保護と回復に関する条例」(以下「自然保護条例」とする)などに違反し違法である。
 2 「樹木は大きくなればなるほど各種の機能が増し、存在意義が高まるものであり、安易に切断したり幼木と置き換えたりしてはならないのである」(堀大才著『樹木医完全マニュアル』より)。大けやきは、都心に残された数少ない巨樹であり、まさに歴史的・文化的財産として地域のシンボルであった。また、大けやきは、生態学的にも都市の生活環境保全の点からも貴重な樹木であった。本件工事以前の戸山団地は、大けやきを中心にたくさんの樹木や草花が四季を彩り、野鳥も集まる自然が豊かにあった。そして、東京都は《21世紀の東京の緑づくり》の推進を策定した「緑の東京計画」で「地域に育つ巨樹は、人に幼い頃の記憶を呼び起こさせ、生きてきた年月と世代を超えた存在を意識させます」と巨樹を評している。従って、都市の自然の保護と回復の観点から、いったん失えば取り返しのつかない貴重な巨樹であった大けやきは、どんなに困難であろうとも保存しなければならない樹木であった。
 3 「自然保護条例」は第2節第4条で知事の基本的責務を定め、更に第11条では「公共事業における知事の義務」として「公営住宅の建設などを行うに当たっては、自然の保護と回復に十分配慮しなくてはならない」としている。もし、知事がこの条例に従えば大けやきを伐採することはありえなかった。また、住宅局は本件工事に当たって、まず大けやきの保存を確認した上での設計を進めるべきであった。にもかかわらず両被告は、条例の定めた責務・義務を果たそうとは全くしなかった。
 4 また、「自然保護条例」の第3節では、区市町村の責務として、都の施策への協力と保護・回復を求めている。これに基づき新宿区は「みどりの条例」を制定し、その第11条で「土地の所有者または管理者は、今ある樹木および樹林の保護に努めなければならない」としている。さらに第12条で「区長は(略)特にみどりの文化財として保護する必要があると認めるもの(後略)」を、施行規則第5条第1項で「地上1.5メート ルの高さのおける幹回りが1.2メートル以上の樹木」として保護樹木に指定し、助成、違反 行為の公表などによって保存に努めるとしている。しかも「みどりの条例」第7条においては、区の木を「けやき」と指定し、区長、区民、事業者に対して、区のみどりの象徴として保護と育成を特に求めている。新宿区では、条例に基づき私有地での幹回り1.2メートル を超える樹木の伐採は違反とされるのであるから、公有地においても伐採ができな いのは当然である。
 5 以上のように両被告は、東京都および地域住民の大切な財産である大けやきの保護に最大の努力を払うべきであったはずなのに、およそなんの配慮もせず進めた本件工事の設計・建築計画より伐採に至るまでのことは、東京都及び新宿区条例の重大な違反となる。
従ってその設計委託費用
 (I) 都営住宅百人町三丁目第3・四丁目団地基本設計
  契約金額 9,660,000円(平成10年9月22日契約締結)
 (II) 都営高層住宅百人町三丁目第3・百人町四丁目団地建物設計
  契約金額 70,875,000円(平成11年8月20日契約締結)および大けやき伐採のための費用
 (III) 工事費用から積算された伐採のための諸経費 120,000円
以上総計80,655,000円は、条例に違反する支出を禁じた地方自治法第2条第16項に違反する。また、両被告は、違法な公金支出によって東京都が被った損害を賠償する責任がある。

第三 住民監査請求
 原告は、平成13年2月8日に東京都監査委員に対し、大けやき伐採に至るまでの違法な公金支出について、地方自治法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求を行った(甲第一号証)。その結果同年4月5日付で東京都監査委員は原告に対し「本件請求は、理由がないものと認める」という旨の通知を行った(甲第二号証)。その理由は、「自然保護条例」第4条、第11条の規定は、『いずれも具体的な義務を課したり、規制をするものではない』からというのである。しかも監査委員の判断の根拠とする事実関係においてもいくつかの誤認もあり、原告らはこれに承服することができない。

第四 結論
 よって、知事の責務・義務を定めた「自然保護条例」に違反した東京都知事石原慎太郎、および違反した本件工事を推し進め大けやきの伐採を強行した責任者である住宅局長戸井昌蔵の両被告は、東京都に対し上記損害を賠償する責任がある。原告らは、地方自治法242条の2第1項第4号前段に基づき東京都に代位して被告に対し損害賠償として請求の趣旨記載の金額およびこれに対する訴状送達の翌日から支払い済に至るまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

       証拠方法
甲第一号証 住民監査請求書の控え
甲第二号証 住民監査請求に係る監査結果通知書

       附属書類
一 訴状副本  2通
二 甲号証の写し 各3通 
                             以 上



[HOME]